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二日続けて女の子の家に招かれたのだと気付いたのは、紅茶のせいだった。
昨日みかんの家で出された紅茶と同じ味がしたから昨日のことを思い出して、そして改めて現状を顧みたら、ここも女の子の家だと気が付いたのだ。
気が付かないほうが維遠の精神的には良かったが、気付いてしまったものはどうしようもない。無意味にドキドキしながら相手の出方を待つ。
豪勢な家であることが気にならないのは単純に楽の実家も金持ちだからだ。ここほど大きな家ではないが、何度か行ったことがあるので免疫らしきものはある。雰囲気に飲まれるとしたらそれは家柄ではなく、維遠を招いた人間が女性――同年代の少女であるという事実のほうだろう。
みかんのように外見と年齢が一致しないような、極めて特殊な例でない、普通の女の子が自分を招いたことが緊張を誘う。
普通の女の子がお嬢様言葉を恥ずかしげもなく使うのかどうかはさておき。
「少々意外でしたわね」
対面にすわるレヴェッカが口を開いた。
応接室と思われる、ソファとテーブルの置かれた部屋である。維遠の部屋の五倍はありそうな、入る人数に対して明らかに大きすぎる部屋。装飾も過多で、維遠としてはあまり趣味に合わない。
そこにレヴェッカとシィカが並んですわり、その正面に維遠とみかんがやはり並んですわっている。
テーブルには高そうなカップに入った紅茶が四つと、パウンドケーキっぽいお菓子が四つ。それぞれ一つずつ、各自の前に置かれている。
「…………何がです?」
「いえ……先にお招きしたお二方は紅茶には口を付けられませんでしたから」
「はぁ……すみません」
「ですから、意外でした、と」
「それは敵陣云々という話ですか?」
「そうなのですが、維遠さん」
「はい?」
唐突に名前で呼ばれ、背筋が伸びる。
「敬語でなくて結構ですわよ。わたくしのコレは癖ですからこのように話しているだけです」
「はぁ……」
「そもそもあなたとわたくしは出自も違えば出身校ですら同じでないのです。年齢の一つや二つで先輩風を吹かせるほど狭量ではありませんわ」
「それはどうも」
会釈で答える。レヴェッカが早生まれだった場合、数ヶ月の年齢差しかないこともありえるわけだが、維遠としてはその辺りの事情はどうでもいい。
むしろ疑問なのはみかんといい、レヴェッカといい、人の話し方にどうしてこうもケチを付けるのかということなのだが、
「なにか?」
「いえ」
言わぬが花だろう。沈黙は金とも言う。
「いや、まあ、『出されたもんは残さず食え』がウチの家訓なんで」
「それは素晴らしい家訓ですわ」
「はぁ、どうも」
「ですが、それは平生の場での話でしょう? 少なくともわたくしとあなたの場合、こと今日に限ればそんなもの、唾棄すべきことでしょうに」
「いや……」
単純に腹が減っているからだ、とは言いにくい。
学校で補習が終わった帰り道から直接ここに来たのだ。昼食を取るタイミングはなかったし、まさか空腹を感じるとは思わなかった。
維遠は空腹でも比較的平気な性質である。眠いほうがよほどつらいのだが、昨日の戦いのせいか、今日は妙に空腹なのだった。
「ま、毒、盛りそうな人でもなさそうやったし」
ごまかしつつ、本音を語る。
「その慧眼は認めますが」
自分の髪の毛を縦ロールにして、お嬢様言葉で喋るような人間がそんな小細工を打ってくるわけがない。それならば問答無用で戦闘を始めるほうが幾分ありえそうだ。
自己主張が強いということは、それだけ自分に自信があるということでもある。ならば毒などという卑怯な手段を使わないことは言うに及ばず、より直接的な手段を講じるだろう。《ブレイド》として優秀ならばなおさらに。
彼女は間違いなく強い。それは昨日の男とは別次元の、あるいは別ベクトルの強さだろうが、なんにせよ小細工を弄する必要性を感じさせない。それが先の二戦で得られた強さなのか、元から持ち合わせるものなのかまではわからないが、強さを含めた彼女の存在それ自体に清廉さを感じさせるものがある。
だからこそ。
「なんでそこまで乗り気でこの戦いに参加してるんかわからんな」
「それは人それぞれだと思いますわ。あなたにだって参加している以上、理由はあるんでしょう?」
「叶えたい望み、みたいな?」
「ええ。少なくともわたくしにはありますわ。他の人間から見れば取るに足らないことでしょうけれど」
少しだけ表情がかげる。
「お呼び立てした用件はまさにそのことに関してですわ、維遠さん」
しかし顔を上げたときにはすでにさっきまでの自信に満ちたものだった。
「――?」
「あなたの願い、もし金銭で叶うようなことでしたらこちらでご用意して差し上げますけれど」
「パスします」
即答した。
最初にみかんに言ったときのように、『こち』のあたりでスタートを切った。お陰で維遠のセリフは丸々レヴェッカのセリフとかぶった。
ちょっと彼女が青筋を浮かべているのもわからないではない。ああいうタイプは自分のターンは自分だけで完結させたいのだ。
「………………」
「………………」
「………………。ええ。もちろん、可能性として考慮しなかったわけではありませんでしたけれど。ここまでアッサリ、されると、その、ええ、もちろん、想定していなかったわけではありませんけれど」
「あの、月影さん?」
「この月影レヴェッカ、たしかに少々人を蔑ろにすることが多いと周りから注意を受けることもありましたわ、ええ、ありました。なるほど、こういうことでしたのね……。これはたしかに無礼千万、これまでのわたくしの行いを謝罪することもやぶさかではありませんわ……」
「お嬢様。お嬢様!」
今まで黙っていたシィカが慌てたように、レヴェッカをこちら側に戻ってこさせようと必死に、肩をゆすりつつ呼びかけている。
「けれどそれはそれとしてやはりこの方にもそれなりの制裁は受けてもらわねばなりません。ええ、わたくしの発言を遮るなど捨て置ける問題ではありませんわ。ここは――」
「お嬢様ッ!!」
「……失礼。少々取り乱しましたわ」
少々? と思わなくもない。黙っているが。
「つまり、あなたの願いは金銭的なものではない、と」
「ていうか金があったらどうにかなる問題でこの戦いに参加するヤツっておるんか?」
「一戦目の方はそれで勝ちを譲っていただきました」
「まじか」
「ええ。さすがに二戦目はそうはいきませんでしたけれど」
「ああ、まぁ、なぁ……」
「ですから可能性のある以上は聞いておこうかと思いまして」
「ふぅん……」
「期待してはいませんでしたが」
それから気を取り直すように紅茶に口を付けた。
「それでは剣を交えるということでよろしいですわね?」
「……むぅ」
しかしそれはそれで避けたい事態の一つでもある。維遠としては女の子と戦闘などしたくはない。それがエゴであることを自覚しているが。
「……一つ聞いてエエかな」
「なんなりと。答えるかどうかは別ですわ」
「月影さんの願いが何か知らんけど。それって俺が叶えられる類のものやないのん?」
「違います。加えてわたくしは自分の願いを誰かに任せっきりにするような女でもありません」
「さよけ」
もし維遠が優勝しても彼女の願いが叶えられるなら、などという仮定の話すら断ち切られた。
「ですけれど。もしもわたくしを倒せたらどんな願いだったのかくらいはお聞かせしてもよいですわ」
「それはアレか。プレッシャーか」
打倒した相手にもまた、かけがえのない願いがあったのだという事実。
それを背負うからこそ勝者は勝者たらねばならないというプレッシャー。
「ええ」
にこやかに笑って言うが、細められた目の奥の瞳は一切笑っていない。至って真剣と言うよりも、少し復讐に彩られているような。
――わたくしの発言を遮ったこと、後悔させてやりますわ……
いや、そんな気がしただけだ。根拠はない。たぶん、彼女はそんなことは思っていないし、言ってもいない。
「わたくしの発言を遮ったこと、後悔なさい」
言った。しかも命令形。
「すみませんでした」
「ええ、謝罪は重要です。さりとてそれで全てが許されるわけではないのもまた然り」
「えぇー」
「安心なさいな。殺したりはしませんわ。それでは下僕にできませんもの」
「……さよか」
たぶん本当だろう。問題なのは下僕にする気でいることも本当な点だ。
「日取りはいつにいたしましょうか。こちらとしては春休み中にしていただけると助かるのですけれど」
「え? 今からせぇへんの?」
「……それは構いませんが、本気で仰っていますの?」
「あー……」
みかんを見る。
「わたしはいいわよ。狡いこともなさそうだし」
やれやれ、みたいな仕草で答えた。概ね予想通りだったのだろう。
「じゃあ今からで」
「承りました。ですが少々お時間をいただいてよろしいかしら?」
「ええよ」
「それからルールの確認を」
「?」
「決闘であるからにはきちんとルールを確認するのが道理というものですわよ」
「そうか?」
「ええ、もちろん」
「せやけど《コマンド》に書いてる以上のことは――」
「あなた、相手を殺す気もないのに[死亡]をルールにするおつもり?」
それは皮肉というよりもあきれているといった様子で。
「わたくしは先にも申し上げたとおり、殺す気はありませんわ。さりとて《コマンド》を狙うつもりもありませんの」
「……それはお互い天使は外野に追いやって、《ブレイド》だけでケリ付けようって?」
「理解が早くて助かりますわ。お互いに殺すつもりがなくて、天使を巻き込むつもりがないのであれば、わたくしたちだけのルールがあってしかるべき。ならば敗北を認めたほうが負け、でよろしいのではなくて?」
「気絶含めて?」
「当然。もちろん、命霞さんがよろしければ、ですけれど」
「わたしはそういうことは維遠に任せるわ」
「んなら、それで。気絶あるいは降伏で敗北。天使は《ブレイド》側の決断に従うこと。オーケー?」
見回す。全員うなずいた。
「それでは三十分後に前庭に集合ということで」
レヴェッカとシィカが出て行く。
それを見送ってから、
「たぶん、大丈夫だろうと思うけど。わたしが狙われても気にしないでいいからね」
みかんが言った。
「いや、気にするやろ」
「でも、あの言い方だとしようと思えばできるって感じだった」
「それはそうやけど」
あの手の性格の人間がそれをしたら詐欺だろうと思う。詐欺でない保証なんてないのも確かなのだが。
「ま、でも大丈夫やろ」
「それは維遠が? それとも彼女が?」
「両方」
「……大した自信ね」
「みかんほどやないよ」
午後の穏やかな光が部屋に差し込んでいる。
‡
屋敷から離れること約二十メートル。もはやそれだけの距離が個人宅で取れること自体が何かの冗談のようだが、残念ながら多少の誤差はあっても本当である。
天使二人は屋敷の中に残った。結界もすでに張ってある。
どれほどの激戦になろうとも何の問題もない。
『お二人とも準備はよろしいでしょうか』
スピーカーを通してシィカの声が聞こえる。
審判も兼任する彼女らはカメラを通して二人の戦いを見ることになった。みかんは直接見たがったが、結局、折れた。
「みかんがでけへんことは俺がやったるって」
そう維遠が言ったからだ。
十メートル向こうのレヴェッカは三十分の間に着替えていたらしく、赤いノースリーブで少々丈の短いスカートのドレスを着ている。動きやすさを求めた――彼女なりの戦闘服のつもりなのだろう、派手であるが、下品ではない。レヴェッカの場合、何を着ても似合いそうだが。
着の身着のままの維遠とは大違いである。
「わたくしはいつでも」
言葉どおり、彼女の手には《ブレイド》が握られている。
軽く湾曲した片刃の刀身、片手用の黒い柄。朱色の刃を付けたそれは舶刀と呼ばれる、船乗りたちが戦闘よりもむしろ日常扱う刃物として愛用していた剣だ。
彼女が使うには俗っぽいというか、野暮ったいというか。庶民の武器を選択したことに少しだけ違和感を覚える。
「維遠さんも。遠慮は無用に願いますわ」
「や、俺のはちょい特殊でね。条件が厳しすぎてこういう戦いでは使えん」
「……嘘をついているようではなさそうですが」
「ま、丸腰ってわけでもないから」
手に、星屑を散らしたような淡い光――《オーラ》をまとう。
「俺の愛用の魔術――《オーラ》や。効果はずばり外界との遮断……ていうほど強うはないけど、まあ、守性防御なんは間違いない」
「なるほど。《ブレイド》でありながら徒手空拳を武器にしていますのね」
「……ちょっとバカにしたやろ?」
「いいえ。少なくともそれで昨日、勝利したのでしょう? 侮りは己に敗北を招きます。……射程の差をものともせずに勝利したのであれば秘密はそれなりにありそうでわね」
言外に「全身をも包めるのだろう?」と確認してくる。
「ま、それはお互い様」
維遠とてレヴェッカの《ブレイド》の外見がわかっただけで能力まで把握しているわけではない。それは戦闘が始まってから確認することだ。
「では返礼にわたくしもひとつだけ」
「?」
「この《ブレイド》の名前は《ブラックドラグーン》と申します」
まるで謎かけのように彼女は言った。
「シィカ! 号令を!」
『かしこまりました、お嬢様。神園様もよろしいですか?』
「いつでも」
『それでは……』
一拍の後。
『『始め!!』』
みかんの声と重なり戦いの開始が告げられる――その瞬間、
「!!!!!!」
維遠は屋敷と反対側に横っ跳びで回避運動を取った。
一瞬間前まで維遠のいたところに五本の刀身が刺さる。
それは朱色の曲刀――《ブラックドラグーン》の剣身だ。
「おいおい……」
「近距離を得意距離となさるのでしたら、わたくしとは相性が悪いかもしれませんわね。わたくしの得意距離は――中・遠距離ですもの!!」
剣が振るわれる。同時に刀身が唸りをあげて維遠に迫る!!
サイドステップで躱し、森の中へ逃げ込む。
一旦隠れて態勢を――
「無駄ですわ!!」
地を蹴る音を聞くと同時、屋敷側に回ったレヴェッカは己が《ブレイド》を射出する!
それは一直線に維遠を狙い――木に阻まれ、
「っ!! まじかッ!」
ない!
木を切り裂き、ほとんど勢いを殺さずに維遠を狙う!
「チ――」
拳を握り、《オーラ》でもって弾き飛ばす。
二撃、三撃、四撃――!!
「くそ!」
地形の不利を悟り、木々を躱しながら前庭へ戻る。転がるように飛び出た維遠を、
「もらった!!」
速射でもって迎え撃つ!!
この瞬間、秒で二十撃に迫る投擲が維遠に襲いかかる。
今の維遠で到底弾き返せる量ではない。
「チ――」
多少の無茶は承知で全身に《オーラ》を広げる。
「だぁ……らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
両の拳で弾く、弾く、弾く!!
弾いた刀身で以って次の刀身を弾き、さらにその次の刀身を弾き――
「む……り――」
一撃当たる。堰を切ったように二撃、三撃、四撃、五撃――!!!
朱色の奔流に圧しきられ、吹き飛ばされた。
あまりの攻撃量に維遠の周囲から土煙が上がる。それを見てレヴェッカも手を止めた。
《ブラックドラグーン》の能力は《刀身の射出》だ。
それをここまで連射できるようになったのは、シィカと一年以上に及ぶ訓練があったからだ。前回の相手はここまでする前にへばってしまった――というよりも、ほとんど強制的に気絶させた。
彼女の攻撃にはある魔力特性を持った魔術が組み込まれている。
――《減衰》である。
これはかなり《ブレイド》と相性のよい魔力特性であるのは間違いない。
体力、魔力、気力、精神力。戦闘中に漸減していくものに限りなどなく、それらを《減衰》させる術式を《ブレイド》に組み込むだけで有効な攻性魔術となるからだ。
加えて彼女の《ブレイド》は飛び道具。一度はまれば相手は勝手に消耗していく。
ある種の最強である。
「……少々調子に乗り過ぎましたわね」
未だに晴れない煙を見て思う。死んでいなけ――
「だぁあ!!!」
轟! と大地を蹴り、煙の中から跳躍する。
軽い音を響かせて維遠は着地した。
見た目としては無傷である。
「――驚きましたわ……」
ただし《オーラ》は消えてしまっている。
前回の対戦相手二人分の魔力を《減衰》させるだけの攻撃だったのだ。消えていないほうがおかしい。
しかし。
「いや、こっちの魔術にここまで干渉されるとは思わんかった」
維遠にはまだ余裕がある。演技かもしれないが、その程度の余裕はある。
「嘘みたいな魔力量ですわね……」
「信じられんくらい巧い魔術構成やねんけど……。昨日の男といい、《ブレイド》あんねんからソレ頼れよ……」
「お褒めにあずかり光栄ですわ。けれど一見で見切ってしまう慧眼も流石と申しておきましょう」
「そらどうも」
森の中で弾くのを見て少し強めの構成に変えたのだが、それにも気付いたようだ。
つまり、《減衰》の対概念――《増強》で以って《減衰》の効果を高めたのだ。
連射よりはむしろこれを会得するのに一年かかったわけだが、容易く見切られてしまった。連射性能の上昇など《増強》が扱えれば容易い。
だが逆に言えばそれだけ魔力を消費する。
維遠の《オーラ》に比べれば微々たるものだが、レヴェッカはそれほど魔力量に秀でているわけではない――と、自分では思っている。維遠の温存魔力量がどの程度かわからないが、このペースの攻撃を続けなければならないとなるとかなり厳しい。
やはり史上初の快挙を成し遂げただけのことはある。
「強敵と見えることができるのは、けれど、喜ばしいことですわ」
血が騒ぐ。圧倒的に思えた自分の力でさえ及ばぬ境地がある。
その事実が彼女を昂らせる。
「――維遠さん」
「はい?」
「正直に言って、侮っていたこと、お詫びいたしますわ」
「いや……ええけど」
「ここからはわたくし、全力で戦わせていただきます」
「えぇー……」
「いざ……!!」
愛刀を振るう――!!
《オーラ》をまとった拳で弾き、弾いた剣身で弾き、迫る曲刀を躱し、唸る凶器はしかし、十撃、あるいは十五撃の間に必ず一撃入る。
数としては先ほどよりも防げている。だがそれ以上に喰らうダメージが大きい。
――量より質に切り替えてきたか
それでも夥しい量であることには違いない。もはや維遠の周りは墓標のような朱色の剣が林立している。レヴェッカが繰り出してきた攻撃の数は早、千を超える。
にもかかわらず表向きは平然とした表情のまま、むしろ数を追うごとに溌剌としてきている。実に楽しそうに。
維遠としては魔力切れを狙うつもりだったが、やはり一筋縄でいくような相手ではなさそうだ。
ほんの少し。
少しだけ触れることができれば《オーラ》で気絶させられる。
だがそれが難しい。触れるどころか近づくことさえ困難なのだ。
――特攻を仕掛けるか
時間をかければお互いジリ貧だ。
ならばそんなマラソンマッチではなく、もっとスマートにわかりやすい決着を。
覚悟を決めて迂回するように走りこむ。
弾き、弾き、弾き――
躱し、躱し、躱し――!
喰らい、喰らい、喰らい――!!
「だらぁぁぁぁ!!!」
腕を伸ばす!!
しかし。それは、
「やはり侮れませんわ」
左手に握られた緋色の《ブラックドラグーン》で以って弾かれた――
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